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イスラーム防衛行動と「反中」の影

· Militants

月刊『東亜』に掲載されています(コチラから)。締め切りがジャカルタ州知事選の直前だったので、選挙結果の部分だけゲラで差し替えました。このテーマで、6月の比較政治学会(プログラム)にて発表します。4月19日の選挙、宗教冒涜罪の裁判の結果も踏まえて、これから議論を進めていくつもりです。

インドネシア・ジャカルタ州知事の「宗教冒涜」に対する抗議運動とその政治的帰結

 本発表では、インドネシアの首都ジャカルタ特別州で起きたイスラーム急進派が主催する社会運動が、なぜ大規模な動員に成功し、いかなる政治的帰結をもたらしたのかを検討する。

 2016年10月以降、「イスラーム防衛行動」の名の下に、バスキ・プルナマ(通称アホック)ジャカルタ州知事に対する抗議運動が繰り返された。その発端は、華人でキリスト教徒である州知事が、コーランの一節を理由に異教徒の指導者を認めない人々を揶揄したことにある。この映像が歪曲されたうえにSNS経由で流出し、イスラーム急進派が主催する抗議運動が始まった。12月2日に行われた「イスラーム防衛行動パート3」は数十万人を動員、1998年の民主化以降最大規模のデモとなった。デモに前後して、インドネシア・ウラマー評議会(MUI)が知事の発言をイスラームにおいて「違法」と認定、アホックは宗教冒涜罪で刑事告訴され、有権者の支持率は急落した。2017年2月には州知事選が控えており、抗議運動にはライバル候補を推す有力政治家や野党の関与もあった。さらには、抗議運動の政治的標的は州知事ではなく、2019年の再選を目指すジョコ・ウィドド大統領であるともささやかれている。2月15日の州知事選では、アホックは最多得票だったが過半数に満たず、規定により4月19日に決戦投票が行われることになった。決選投票は大接戦となる見込みで、仮にアホックは当選しても、裁判で負けて失職する可能性もある。

 本発表が検討するのは以下の仮説である。第一に、イスラーム急進派が主催するデモが大規模化したのは、急進派によるデモのフレーミングの巧みさであった。他方、デモの隠された標的となった大統領もまた、異なるフレーミングを提示して運動の沈静化を図った。第二に、州知事選において宗教を争点化させることでムスリム有権者のアホックへの支持を減退させ、落選に近づけたことである。分析に当たっては、2012年の州知事選と2014年の大統領選における地区別の詳細な結果と国勢調査のデータを使用し、宗教が争点化したことによる影響を論証する。以上から、社会運動の政治的帰結を論証するうえでの課題を指摘したい。