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スラバヤのテロ事件について

5月17日追記

· Militants

 スラバヤで凄惨なテロ事件が相次いでいる。事件の概要については日本のメディアでも詳しく報じられているのでここでは繰り返さない。以下、ここまでの現地の報道やソーシャルメディアの動向を踏まえて、気づいた点を整理しておく。

 5月8日にジャカルタ郊外の西ジャワ州デポックにある警察機動隊で暴動が起こり、30時間にわたり受刑者が3つの留置所ブロックを占拠、警察官5人を殺害するという事件があった。警察はこの事件との連続性を指摘している。

 デポックで中心となったのは、JADのリアウ支部長であったWawan Kurniawan(通称 Abu Afif)だった。Wawanは2017年10月にリアウで軍事訓練を行っていたことで逮捕された。彼に家族が届けた食料が渡されなかったのが暴動のきっかけだとされている。受刑者は留置所に保管されていた(なんでそんなところに・・・)証拠品の武器を強奪した。どこまで計画性があったのかは分かっていないが、身内に犠牲者をほとんど出さずに降伏したことも含め、うまく行き過ぎである。周到な準備があったのではないだろうか。

 インドネシアの武装闘争派は、IS支持のJADとアルカイダ支持の主流派(JAT、JIなど)に分裂しており、今回も前者が起こした事件である。デポックでも、後者の受刑者は暴動に協力せず、むしろ警察官の救出に協力したという。これまでの捉え方を変える必要はなさそうである(拙著第2章も参照ください)。留置所暴動のあと(スラバヤ事件の前)、西ジャワのブカシとチアンジュールでJADメンバーの逮捕(射殺)が続いていた。

 スラバヤの事件後、警察はJAD最高指導者のAman Abdurrahman、東ジャワのJAD指導者Zaenal Anshori(Amanに代わる最高指導者と目されていたという)の(再)逮捕が一連の事件の背景にあると発表している。Omanは2011年のアチェでの軍事訓練を指揮した容疑で有罪になっていたが、刑期を終えたところで再逮捕された。2016年1月のジャカルタでのテロ事件の首謀者として公判中である。Zaenal Anshoriは東ジャワ州トゥバンの警察詰所襲撃事件の首謀者として2017年4月上旬に逮捕され、2月に禁固7年の刑が言い渡されている。これらの指導者の逮捕に対する「報復」ということである。警察長官はZaenalがフィリピンからの武器輸入に関わっていたとして、国際的側面も強調している。なおISからは犯行声明がでている。国際的にはシリアで事実上制圧されたISの反攻という位置付けである。

 13日にスラバヤで3つのキリスト教教会を襲った一家の父親Dita Oepriarto、近郊のシドアルジョのアパートで誤爆後射殺されたAnton Ferdiantonoは友人であり、いずれもJADメンバーだったとされている。14日の警察署での事件を含め、一つの家族が一つの作戦を担うというのが新しい現象である。これまで計画段階で発覚した未遂事件が、通信を傍受されたためにこうした手法をとったのだろう。ここ数年の事件は、自爆した実行犯以外に死者が出ないようなケースも多かっただけに、3教会の襲撃はかなり綿密に用意されたものだったと思われる。

 ソーシャルメディア上では、ジョコウィ政権への批判者は政権の問題に、政権支持者は解散させられた解放党(および解放党を擁護した野党勢力)と結びつけている。何の事件でも政権の支持不支持と関連させたがる傾向は、日本の(ソーシャル)メディアと同様である。国内政治において重要な動きは、国会で止まっていた反テロ法の採択が一気に進むかもしれないことである。会期中に採択されなければ大統領令を出すとジョコウィはツイッターで表明している。この期に乗じてテロ対策への関与を強めようとする国軍の役割が焦点である。

追記(5/17):一家を単位に作戦が行われた背景には、ISが家族での移住を促したことがあった。シドニー・ジョーンズは、女性は従属的に付いていったのではなく、むしろ男性より積極的にコミットしていたケースが多かったと指摘している。