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イスラームと科学、大統領選

· Art

中スラウェシのパルで会議があり、ジャカルタへの帰路の飛行機で「イクロ クルアーンと星空」(2017年公開)を観た[1]イスラーム映画祭でも上映していたので気になっていた映画だった。子ども向けだし映画の内容は一見微笑ましいのだが、製作者の宗教的・政治的な背景を踏まえると興味深いというか生々しいというか。

主人公は宇宙や天体に憧れる少女である。学校の休みを利用して、祖父が所長を務めるバンドゥン郊外の天文台を訪ねる。目的は冥王星を観察すること。しかし祖父は、コーランが読めるようにならないと、冥王星は見せないという。少女は不満に思うが、イスラームと天文学の歴史を知り、イスラーム学校に通う。その裏で、天文台の近くにホテルが建設されることになり、天文台は閉鎖の危機を迎えていた。ホテルの明かりで天体観測が不可能になるからだ。さて、天文台の行く末は・・・。

何が生々しいかというと、少女の祖母役がネノ・ワリスマンだということ。ネノ・ワリスマンは1980年代に歌手、映画スターとして活躍した。近年はイスラーム色を強め、すっかりテレビ説教師の仲間入りをしている。現在は、ジョコウィ大統領の再選阻止を訴える「#2019GantiPresiden(2019年大統領を取り替えろ)」運動のヒロインとして脚光を浴びている(下のビデオを参照)。そして映画の最後のクレジットタイトルには、保守的なテレビ説教師、そして2014年に副大統領候補となったハッタ・ラジャサなど野党政治家の名前が並ぶ。

子どものイスラームへの興味を惹くのに、イスラームとの相性が良い天文学というのは興味深い。進化論などでてきたら話がややこしくなるから。ホテル建設の問題を背景に置いたのもしたたか。実際にリゾートホテルの建設は環境の悪化(とくに水資源の枯渇)や立ち退きをめぐってあちこちで問題を起こしている。しかし、映画の製作者たちはそうした問題にコミットしてきたわけではない。与野党を問わず、政治エリートは開発の利権をめぐって財界と癒着している。政治家自身が企業経営者であることも多い。反開発の論理は政権批判に都合のいいときだけ、短期的に使われる[2]。最近のネノ・ワリスマンの「活躍」とシンクロして、気味の悪さを感じていたところに、クレジットタイトルが出てきて合点がいった。深淵なプロパガンダ映画、というと言い過ぎだろうか。

 

[1] 「イクロ」はコーラン(クルアーン)にある最初の啓示「詠め!」。インドネシアではコーランの早習法を指すことが多い。

[2] 2017年のジャカルタ州知事選でも、埋め立て事業をめぐる反開発とイスラームの論理が見事に合体した。

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